同志社大学商学部 高橋広行 研究室

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京都の老舗 フィールドワーク

ゼミ生の吉川佳奈恵さんのレポート課題に興味があり,フィールドワークに一緒についていきました。

日本老舗百店会の『日本の老舗』によれば,「日本老舗百店会は,三代以上または百年以上つづき,世間の評判もよく,今も繁盛中の老舗の集いです」といった定義があるようだ。しかし,この繁盛の定義や評判の定義は主観的であるためあいまいである。そんな思いを抱きつつ,今回,ヒアリングさせて頂いたのは,2件であり,一件は京麩を商標とする「半兵衛麩」の苅谷店長,「柏庵」の中川店主である。

この定義でいけば,半兵衛麩は,320年以上続いており,現在11代目のため間違いなく老舗となる(はずである)。柏庵は50年以上の歴史があるようだが,両方とも日本老舗百店会には入っていない(このあたりの会のあり方は何らかの敷居があるのだろう)。ただヒアリングした印象や実感では,老舗であることは必ずしも各店舗にとって利になるというものではないようだ。個々の店舗ヒアリングからそう感じた。

とりわけ印象的だったのは,「半兵衛麩」の場合,麩を生産し,料亭に流通させるといった従来の事業領域から,その市場の定義を「普段の食卓」に大きく変えていったことが企業におけるイノベーションであると考える。それによって戦略は大きく変わる。その契機が料理の提供/提案であったようだ。

こういった時代の変化への対応は不易流行=まさに変えては行けないものと変えていくことのバランス,そして信者を作る(=これは儲けるという字になるという:なるほど!),といった方針はまさに先義後利という石田梅巌の教えに習っている。

※評判の3000円のランチコースはとてもおいしく,ボリュームもあり私は食べきれなかった。

「柏庵」では様々な話をお伺いすることができて、とても勉強になった。

(色々と奥が深い話のため、ここでは詳細までは記載できない)

干菓子について

  • 菓子作りとは、10年で一通り覚え、その先はセンス
  • 洋菓子と異なり、技術力の高さが菓子に直接反映されるため、目に見えやすい
  • 顧客よりも仕入れ先を大切にすることの教えとその理由
  • 菓子の語源は果物だから、草かんむりに果となっている など

暖簾(のれん)について

  • 暖簾―老舗ー菓子屋ー餅屋のヒエラルキー
  • 暖簾ビジネスの現状
    (丁稚システムで展開されて来た時代と異なり、仕事を選ぶことが出来る時代になったことにも関連する後継者の課題)
  • 暖簾分けの際は屋号をもらいつつ新しい名前をもらうこと (屋号+命名)
  • 暖簾分けされた店舗間は家族のような存在
  • 暖簾間の商品を集めてひとつの詰め合わせを作ることができる、など

京都に新参社が入りにくい理由

  • 菓子屋同士のつながり
  • 菓子屋の卸・小売のバランス
  • 餅屋と菓子屋は競争相手として見ていない、など

近年、干菓子の道具を作る業者も菓子を知らない人が増えて来ており、使いやすい道具が減ると今後商売がやりにくくなる(菓子の抜けやすさ、扱いやすさなど)、など。

伝統を維持することや老舗であることの大変さ、「暖簾」というブランド拡張の課題、などが実感できた。この辺りは海外での講義ネタにもなりそうなので、時間を見つけてリサーチレターにまとめようと思う。 結局、14000歩、あるいた。初夏の京都はめっぽう暑い。