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商品化プロセス、学生の成長機会に

学生のための実践マーケティング(4)

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NIKKEI STYLE

これまでの3回の連載で、文系における実学の大切さ、商品開発における発想力やセンスの磨き方、データ分析やリサーチの役割について説明してきました。産学連携を通じた企画提案の先には、商品の実現化(以下、商品化)がありますが、実はもっとも難しいステップになります。このステップを経験することで、学生は大きな成長の機会を得ることになります。この最終回では、商品化の難しさについて紹介していきます。

正直なところ、企画提案までは(提案のレベルはともかく)誰でも実践できます。発想力とアイデアがあり、その企画を組み立てる努力さえすれば、提案まではたどり着けます。しかも、企画提案のプロセスまでは、それほど大きな費用はかからないため(調査やフィールドワークにかける交通費など、多少はかかりますが)、学生であっても提案は可能です。しかし、どれほど良い企画であっても、提案先の企業の能力(経営状況、技術力、人員体制、販売先などを含めたインフラなど)との相性によっては、実現できないケースもよくあります。特に、「学生とのコラボ企画は、売れるかどうかわからないリスク」があるため、大幅なコストをかけにくい。そのため、いきなり大規模な生産はできませんから、生産ロットをどうするか、どこで売るのかといった課題が大きくのしかかります。

とはいえ、企画提案で終わらせたくないという気持ちは企業側にも学生側にもあります。私としても学生が何度も議論を重ね、苦労して作り上げた企画ですから、最後まで実現させてあげたい。そこで、私(教員)の役割は、企業と学生、お互いの利益を維持しながら、要望をすり合わせ、どこに着地するかを導いてあげることだと考えています。

商品化には、強いモチベーションが必要

まず、企画を実現させていくためには、企業側の事情やコスト構造、技術的側面の課題をクリアしなければなりません。これは、企画提案よりもかなり高いハードルです。この高いハードルを越えるためには、ゼミ時間外での企業の方との打ち合わせも増えますし、商品化に向けてさらに労力も求められます。そのため、強いモチベーションが必要ですので、改めて、学生に「本当に商品化するまでやりたいか」を確認します。

その確認をふまえた後、実際に企業の方々との打ち合わせに入っていきます。企業の方々との会議を経験することや、対話を繰り返す中で、より厳しい意見をもらうこともあります。こういった経験は学生にとって非常に貴重ですが、現場さながらの要求に対する精神的なタフさも求められます。

京都の念珠(ねんじゅ)、いわゆる数珠(じゅず)の新価値創造プロジェクトの例で説明しましょう。京都の数珠はこれまで仏教とともに伸びて来ましたが、若い世代の宗教ばなれとともに数珠業界は衰退しつつあります。第1回目の掲載で、ネコの首輪につける企画「ねこのわ」を紹介しましたが、別の提案に、カジュアルな草履(ぞうり)につけて販売するという企画がありました。念珠の持つ「お守り」という意味を生かし、草履の鼻緒(はなお)に着けることで、「足元を守る」というユニークなコンセプトです。

総合和装卸の近江屋の方より「実際に商品化を検討しても良い」という連絡をいただき、学生と一緒に打ち合わせに行きました。近江屋の方々は、提案会に参加されていなかったことから再度、プレゼンテーションを行わせていただき、そこでいただいたコメントを元に、何度も提案し、議論を重ねていきながら、内容を詰めていきました。

最終的には、いくつか提案した中で、最も具体的になった企画は、キツネをモチーフにした草履の鼻緒の部分に念珠を付けたものと、狐のイラストを職人が書いた足袋(たび)のセットです。そのユニークな発想や展開方法においても高い評価をいただき、現在、試作品を作っていただき、これから営業担当の方と一緒にレンタル着物業界を攻める予定です。

「わからないことは素直に聞く」

議論を進めていると、現場の用語や業界固有の慣習などがわからないため、何を議論しているのかわからなくなることがよくあります。教員の私でも、知識がない業界のことはわかりません。学生がわからないのは当然です。そういった場合、「自分がわからないことは遠慮せずに素直に聞く」ことが大切です。わからないことを、そのまま放っておくよりも、積極的に質問して、理解を重ねていくことが、課題の解決にもつながります。

(ただし、質問するタイミングは考えましょう。質問したいことをメモし、話の切れ目、一段落した時にまとめて聞くなどの配慮が必要です。)

また、時には議論が迷走し、学生らが次回の打ち合わせまでに「何をすれば良いのか」わからなくなることもあります。そういった場合、教員(私)の役割は、どちらの立場も尊重しながら、着地点を探していきます。企業が実現できる範囲が学生のコンセプトからずれそうになる場合もあります。具現化される形状やデザインに今の技術では限界があるためです。その場合でも、譲れないのは元々の企画で提案した「コンセプト」です。これを失ってしまうと何を作っているのかわからなくなるため、そこを死守するのが教員の最も大切な役割だと思っています。この点を意識しながら、企業側にお願いすること、学生が担当することを整理しながら議論を進め、次回の打ち合わせまでの宿題を明確にします。実際に資金やコストがかかる場合、「誰がそのコストを担当するのか」といった、聞きにくいことも言わなければなりません。そういった課題を一つずつ確認していく作業は、非常に時間がかかります。もし、売り先がなければ、探さなくてはいけません。自分のネットワークを最大限に活かすことが必要になります。

そういった意味で、産学連携は、お互いが持っている力を最大限に出し合わないと、成果を出すことは難しいでしょう。「学生はアイデアさえ出せばいい」という風潮もあるかもしれませんが、それだけでは、良い結果は望めません。学生も、企業も、使えるものは全て使う。学生の提案(新しいビジネスの目)に、お金をかけられないのであれば、他の資産(人的ネットワークや技術)など持てうるものを総動員しなくては実現できません。企業も学生も、そのくらいの覚悟で取り組んで欲しいと思っています。

産学連携のメリット

理系の産学連携は進んでいるものの、文系の産学連携は本当にまだまだ少ないのが現状です。文系の産学連携における企業側のメリットは、いくつかあります。第2回の連載でお伝えしたような「気づき」を得たり、取り組み自体がメディアに取り上げられて話題になったり、新しい市場開拓や販路開拓の機会になります。

学生にとっても、生々しい第一線の実務の現場に呼んでいただき、学ぶ機会は、非常に価値があります。自らの得意なこと(強み)、不得意なこと(弱み)を知ることができます。得意なこと(強み)を活かし、チームメンバーの不得意(弱み)をカバーしながら課題に取り組み、達成した時、人は短期間で大きく成長します。わずか1年の間に目つきが変わります。成長していく学生は、見ていて本当に楽しいです。そういう意味で、学生には色々な経験を積んでほしいと思います。

学生時代の経験は将来も活きる

ところで読者の皆さんは、実務家や大人の方から、「学生のうちは、旅行でも何でもいい、やりたいことがあるなら、挑戦しておけ」と、一度や二度は、言われたことがあるでしょう。実務の方は、どうしてこのようなことを言うと思いますか?

確かに、「学生のうちは自由にできる時間が豊富にあるから」という理由もあるでしょう。私自身も、学生時代にアルバイトばかりしていました。それも良かったのですが、もっと色々なところに行って、現地の方とふれあえれば良かった、知見を広げることに時間を使えば良かったと思うことがあります。そのため、ゼミ生には、「時間を自由に使える学生のうちに、色んなところに旅行にいってきたら?」とか、「興味のあることを、とことんやってみたら?」と言っています。その理由を「イチゴ」を例にお答えしましょう。皆さんは、イチゴの「あまおう」を食べたことはありますか。福岡県産のイチゴです。価格は2パックで3000円、高いもので1万円のものまであります。中には、それよりももっと美味しいイチゴを食べたことがある人もいるでしょう。こういったこだわりのあるイチゴを食べたことのある人は、イチゴの甘みの違いや味わいの深さについて語ることができますが、食べたことのない方は本当に美味しいイチゴとは何か、については語れません。アメリカに行ったことがある人が、行ったことがない人よりも、違う視点や切り口で語ることができるのも同様です。

つまり、多くの実務家や大人が、旅行でもいい、興味のあることでもいい、学生のうちはやりたいことがあるなら、なんでも挑戦しておけというもう一つの理由は、この経験の幅をいくつ持てるか、という点にあります。経験の幅がある学生は、語っている内容についてリアリティがありますし、そこに想いや感情が移入されますので、人間的な魅力も伝わります。就職活動で自分の経験をもとにしたエピソードを深く語れる学生と、語れない学生の差はここに現れますし、社会で活躍している実務家の方は、学生時代に何かに打ち込んだ方が多いのも、この経験の深さや達成感が関係していると思います。ゼミで行なっている実践マーケティングは、ビジネスの第一線のリアリティのある現場での課題を、自分ごとのように考え、解決していくことで大きな経験になります。その経験が、卒業後も自らの生き方に根付いていくと信じて、これからも学生の成長のために、実践マーケティングを続けていきたいと思います。

高橋広行 研究室ホームページ

http:// takahashi.sweet.coocan.jp /

(この連載は今回で終了します)

高橋広行(たかはし・ひろゆき)
 同志社大学商学部准教授。博士(商学),専門社会調査士/1級販売士。専門はマーケティング(特に消費者行動論・ブランド論)。『カテゴリーの役割と構造 -ブランドとライフスタイルをつなぐもの-』(関西学院大学出版会,2011年,日本商業学会賞・日本広告学会賞),『ケースで学ぶケーススタディ』(同文舘出版,共著,2015年)など。実務経験があり,マーケティングが専門であることから,現場感覚を大切にしながら,研究面でも教育面でも現場に役立つ学問「実学」を目指す。趣味は,映画とスイーツとカフェ巡り。

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