コロナ禍が経営を直撃し、地方を中心に経営破綻や閉店ラッシュにあえぐ百貨店業界。しかし、小売業としての売る力は、はるか以前に衰えていた。「小売りの王様」と称された百貨店が、凋落(ちょうらく)した真因は何だったのか。

<span class="fontBold">老舗の大沼(山形市)が1月27日に経営破綻した。</span>
老舗の大沼(山形市)が1月27日に経営破綻した。

 伊勢丹、高島屋に京王、小田急などの電鉄系も集まる百貨店激戦区、東京・新宿。8月半ば、新型コロナの感染拡大を受けて帰省を自粛する都民が増えた分、近場でショッピングを楽しむ人が多くなったのではないかと、百貨店に足を向けた。お盆商戦で活気を見せるはずの時期だが、どの店も静かだ。売り場によっては客の数を店員が上回るほど閑散としていた。

 コロナ禍により、国内需要減を補ってきたインバウンド(訪日外国人)需要はほぼ失われた。消費の山をつくる在庫一掃セールや、強みの催事も密になるという理由で満足に行えない。日本百貨店協会によると1~3月の業界の売上高総額は前年同期比17%減、4~6月は同52%減と落ち込んだ。緊急事態宣言による休業期間が明けた6月単月では前年同月比19%減にまで回復していたが、7月以降の感染再拡大により、収束を期待していた業界関係者の淡い望みは打ち砕かれた。

大手は19年度も減益

 客数減は各社の業績を直撃している。業界最大手で大丸松坂屋を傘下に持つJ.フロントリテイリングは6月下旬、2021年2月期の連結営業損益(国際会計基準)が300億円の赤字になるとの見通しを発表。120億円の黒字だった従来予想が一転赤字となる。三越伊勢丹ホールディングス(HD)も、21年3月期に380億円という巨額の営業赤字を見込む(7月末時点)。営業赤字は08年4月にHDを設立して以来初めてだ。

百貨店大手5社は前期も減益
●直近の各社の売上高と営業損益
<span class="fontSizeM">百貨店大手5社は前期も減益</span><br /><span class="fontSizeS">●直近の各社の売上高と営業損益</span>
注:‌そごう・西武、J.フロント、高島屋は2020年2月期、三越伊勢丹HD、H2Oは20年3月期。カッコ内は前の期比伸び率%、▲はマイナス。J.フロントは国際会計基準のため、総額売上高を売上高として採用した。J.フロントの売上高にはパルコのテナントの売上高を含む
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 では、百貨店が陥った現下の苦境は「コロナのせい」なのか。答えは否。コロナの影響が軽微だった、大手5社の19年度決算も、全社軒並みの営業減益(右の表)だった。業界全体の売上高総額も6月まで、コロナ以前から9カ月連続で前年割れとなった。

 近年急激に増加し、百貨店の収益を底上げしてきたインバウンドの数が、日韓関係の悪化などを背景に昨年は8、10、11、12月に前年割れした。大丸心斎橋店(大阪市)のように訪日客による売り上げが実に4割を占める店もあり、インバウンド需要というゲタが外れた途端に、業績に陰りが差した。もともと、内需をつかむ力が衰えていたところへ、コロナ禍が直撃。業態としての弱さが露呈したというのが正しい見方だろう。

県庁所在地から消える

<span class="fontBold">代表取締役を務めた長澤光洋氏が記者会見で陳謝した</span>
代表取締役を務めた長澤光洋氏が記者会見で陳謝した

 それを象徴するのが今年1月に経営破綻した山形市の老舗百貨店、大沼だ。創業320年を誇り、「休日には家族で大沼に買い物をしに行くことがレジャーだった」(市中心街にある七日町商店街振興組合理事長・岩淵正太郎氏)といわれる地元のシンボル。00年に県内に7店あった百貨店は徐々に減り、残されたのは大沼の山形店のみになっていた。

 「本当にどうすることもできなかった」。代表取締役を務めた長澤光洋氏は1月27日に市内で開いた記者会見で涙を浮かべてこう漏らした。約2億6000万円の買掛金などの支払いのめどが立たず、山形地裁に自己破産を申請。負債総額は約30億円(帝国データバンク調べ)だった。

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