同志社大学商学部 高橋広行 研究室

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コーネル大学でのケース・メソッドの手順

ケース(事例)を用いたディスカッション型の講義は学部のゼミで実施しているものの,社会人相手,しかも第一線で働くリテールの現場の方に実施することから教員も真剣勝負であり,可能な限り,事前の準備に時間をかけて作成した。

ケースに用いた事例は小売企業のハンズマンである。徹底した品揃えと顧客への従業員対応,そして分かりやすい売り場づくりを実践する顧客第一主義のホームセンターである。2011年に九州にて社長に取材をさせて頂き,その経営方針に感動した覚えがあるとても良い企業だ。

今回は顧客第一主義と共に「カテゴリー・マネジメント」と「売り場づくりの工夫」について学んでもらうために,ケース・スタディ論文をベースに,ケース教材を作成し,ケース・メソッドの講義を行った。手順は以下の通り。

1)ケース資料の作成

まず,ケース・スタディの論文からケースの作成に2〜3時間,解説用のスライドの構想,作成で12時間,のべ15時間ほどかけてケース資料を作成した。

ケース・スタディ論文から,事実だけを抜き出す(理論的視点や解釈は含めない)。ディスカッションの流れを確認するために,ケース(文章)を読み返しながら,キーワード(事実)を抜き出す。それを分類・整理しながら,学ぶべきポイントを再確認していく。この整理作業に時間をかける事が大切である。

今回は「意思決定型」のケースではなく「評価型」のケースであるため,理論的解説に加え,背景情報や他の事例を加え,学びとってもらうことを意図した。 解説の材料はパワーポイントで作成し,前半スライドは,ケースの概要,学ぶべき視点と講義の進め方を記載。後半スライドは,ディスカッションの後の解説を作成した。

ケースの特徴(事実)・成功のポイント(意見),学ぶべきポイントをふまえた解説・まとめは,既存の講義資料,テキスト,私の研究分析の結果,海外リテール研修の資料などをふんだんに用いて作成した。 特に,最後のまとめとケースの構造図( 今回のケース文章で示した内容と,背後の経営システムを1枚の構造図にまとめたもの )の作成に力を入れた。このケースの構造図を基本にしながら,解説のページを組み立て直し,最後にまとめを示し,構造図との関連を示した。

ディスカッションでの板書
ディスカッションでの板書

2)ケース・メソッドの進め方

設問の説明10分 ディスカッション 60分 解説30分

ケース資料は事前に読んでくるように伝えていたものの,実務の方々は忙しい。十分な読み込みが出来ていない可能性もあるため,はじめに4名ほどのグループで3つの課題について確認し合って頂いた。その後,全体ディスカッションを実施し,上記のホワイトボードのような意見が交わされた。

解説の前に,動画(TV番組の一部,7分)を見せることで,社長の思想やこの企業の取り組みのすごさを実感してもらいつつ,解説を加えていった。

こういった双方向型の講義のポイントは,進め方,設問の理解など場をきちんと設定してあげる事である。場をまず暖め,発言しやすい雰囲気を演出するために,私の方から,親近感を持ってもらえる自己紹介を実施することで歩み寄る。その後,ディスカッションの状況を見ながら,様子を見に行きつつ,対話していく。発言も相手の意見を尊重しつつ,より多くの受講者に積極的に参加してもらうことが大切であると考える。

3)反省点

反省点は,2つある。第一に,1人の受講生から「発言した意見(板書)を正しく書いて欲しい」という意見である。時間を気にするあまり発言を少し要約して書いてしまったため,発言の意図と少しずれた板書になっていたようだ。第二に,講義の持ち時間をオーバーしてしまったたことである。解説のスライドに気合いを入れすぎたため,90分で終わるべきところを100分を少し越えてしまった。(休憩時間は元々30分と多めに取って頂いていたので,大きな問題はないが)次回は,タイム・マネジメントには気をつける必要がある。

終了後の懇親会で受講生の方々から,「良かった!」「面白かった!」「ためになった」「ハンズマン見に行きたい!」「もう一コマやって!」というコメントを沢山いただき,受講者の所感としては概ね実務に役立つヒントはお伝え出来たのだと思う。私も,こういった講義の進め方の勉強になり,実施させて頂いて良かったと感じている。

なお以下の写真は,スーパーマーケット業界を牽引されてきた、荒井伸也会長とのツーショット。メソッドの講義も褒めて頂き,とても楽しく,良い経験と記念となる一日を過ごさせて頂いた。

懇親会にて 荒井伸也会長とのツーショット
懇親会にて 荒井伸也会長とのツーショット